新麦と旧麦 天然酵母

なんでクロワッサンにルヴァンリキッドを入れるんですか

美味しくする為だよ

全部美味しくするために決まってるでしょ。

 

こんな会話を先輩としたのが結構昔の話。
なるほどなと思いそれ以上質問が出来なくなってしまい。

それ以来、その先輩と話をする時は『全ては美味しくするために』と言うのが前だってしまい。
なぜこうなるのか、なぜこの材料を使うのか、なぜここで休ませるのか、この『何故』があまりにも多すぎるムラタ はもっと勉強したいと、もっと理論が知りたいと。これが製パンを学ぶ始まりだったように思います。

2月〇〇日2020年

シェフまた粉のロット変わります。

 

了解でーす。

こんなやり取りは日常茶飯事で、粉が納品された時に、スタッフは配達の方からどの粉袋から製造ロットが変わったかを聞いておいて、仕込みの時に報告してくれるのです。

大概のロット変更は、給水率の多少の変更で難なく乗り越えれるのですが、
この2月のロット変更の時には少し手間取りました。

粉の製造ロットで性質が大きく変わる事もある

今回発生した生地固いけど、ゆるゆる事件。

生地は固くこねあがる。
だから給水を増やしてみる。
低温長時間発酵後の生地を触ってみる。
昨日の捏ね上がりからは全く想像できないような柔らかい生地になっている。
特にベンチタイム後の生地の『だれ加減』がハッキリと感じられる。

この段階では、損傷デンプンとかの関わりかなー。位で容易に考えていて。
生地自体は固くこねあがるけど、低温長時間発酵後の生地がダレる事を考慮して
さらに少し給水を減らして、生地を仕込んでみたのです。

翌日、生地は固いはずなのに最終発酵まで行くとダレるのです。

通常であれば、表面が「パンっと』張って力が
段階的に付いてきて、ほんの少し脱力感が感じられたくらいの時に窯入れをする。

っと言う流れなのですが、時間が経っても発酵をしても力がついてこない。

ここで毎年のあれか。っとやっと気付くのです。

『新麦だ』

そうです。小麦粉が新しいのです。

お米みたいなもので、新米と旧米。
新麦と旧麦があるのです。

新麦で起こる特徴的な事といえば、生地に力がつきにくいと言う事。(っとムラタは思っております。)

ここで注意点なのですが、普段から、添加物に頼ってパン作りをしているパン屋さんは、この新麦と旧麦の変更があったとしても、あまり気づかないように思います。

例えば、アスコルビン酸を使ってバゲットを作っていたりすると、このアスコルビン酸のお陰で、ある一定水準のところまで生地が酸化していて、同時に酸化防止剤的な働きをしているから、材料的な絡みとか、製法的な絡みとか、作業の仕方的な絡みなどなど、誰がやっても大体の事は同じように出来上がってしまう。これはこれで、メリットだと思うのですが、パンに個性が出しにくいと言う事もあると思うのです。

他の、添加物表記をしなくても良い、改良材、酵素剤、その他色々とあると思うのですが、
シンプルなパンであればある程、発酵が作り出す風味がパンの主体の味に成ってくるので。
ムラタ的に申し上げさせていただきますと、あまり添加物に頼る事は好きではありません。

生地の酸化等のコントロールをする事に面白みを感じているメゾンムラタは、やっぱり昔ながらの製法で乗り越えたいのです。

天然酵母に頼る。

ここで活躍するのが、天然酵母。

天然酵母を入れる一つの目的として、生地の酸化と言うのが有ります。
天然酵母自体を発酵、酸化させておいて、その発酵、酸化が既に進んでいる『種』を使って
仕込み生地全体を酸化させる。

酸化

酸化

酸化

これがメゾンムラタ的なパンへのアクセスです。

昔々、大先輩にこんな事を教わったことがあります。

『天然酵母なんて、ポーリッシュに毛が生えたようなもんだからね。』

これを聞いた当初は何を言っているのかさっぱりわからなかったのですが、
今はしっかりわかります。

どちらも本捏ねの生地に力を付けさせるため。

さらにさらに言ってしまえば、中種法も、ポーリッシュも、天然酵母も、ヨーグルトを入れる事も
レモン汁を入れる事も、ビタミンCを入れる事も、一つの目的は一緒。

酸化させる事。

だけど、使うものによっては、酸化と共に、違う菌が入ってきたり、酸化を防止する働きがあったり
グルテンが強化されたものが同時に入ってきたり、グルテンを軟化したり、溶かしたりする能力が共に入ってきたり。その時その時、その製法あの製法この製法で使い分ける必要性が出てくるのです。

っで、どうやってこの新麦の粉に対応したのか。

まずはルヴァンリキッドだけでの調整、これは日常業務の中での作業を少しいじるだけで出来る方法で、

ルヴァンリキッドの発酵加減をより発酵させて、より酸化させたものを作って、それを生地に混ぜこむのです。

この方法である程度は対処可能なのですが、リキッドをシャバシャバの状態まで参加させたものを入れると、逆に本捏ねの生地が溶けて緩んでしまうので、一応長芋を摩り下ろしたものを救って垂れるくらいの硬さくらいを限度にしています。

この限度のラインでも良さげな生地が上がらなかったので、
次なる手段を投入しました。

ルヴァンリキッドを使いながら、老麺法を並行する。

リキッドの入れる量の調整で乗り越える事も可能な上記の方法なのですが、そうすると、塩加減とか、レシピの根本的な作りの変更まで関与してくるので

前日の生地を取っておいて、その生地を翌日の本仕込みに入れると言う『老麺法』『中種法』を同時採用しました。
入れる量は5%。
この量は、どれだけ生地を酸化させたいかで変えれば良いので、増やしたり減らしたりを簡単にできます。

15%位までなら自由に変えてます。
(低温長時間発酵の取る時間に影響が出るため、72時間発酵とかだと5%位でやってます。
36時間くらいまでなら、10%位入れてもムラタパン的には大丈夫です。
他にも給水と、水和とのバランスがあるので、一概には言えませんが、この説明は複雑なのでまた別の機会に。。。。)

こんな地道な、トライアンドエラーを繰り返し、また今日も安定の品質をお客様、レストラン様にお出しできるパン作りをしているのです。

まとめ

  1. 生地は適度に酸化させないといけない。
  2. 材料的に酸化していない場合は、添加物に頼って安定させる方法や、製法によって安定させる方法があるが、自分が作りたいと思う、他人様に食べていただきたいと思うパン作りで調整することが望ましい。(決して添加物を否定しているわけではございません。
  3. 製法単体でのやり方で乗り越えれない場合は、複数の製法を屈指して乗り越える事も考える。
  4. トライアンドエラーでしか見えない答えを地道にパンと対話しながら考える。
  5. パン作りは決して難しいものではなく、愛が必要なものである。
    以上。