パン生地の力

職人になりたての頃。
『パン生地は強くなければいけない』
これだけをよく考えて作っていたように思います。

それが、17歳で神戸に来て、初めてビゴの社長に会って聞いた言葉が
『このバゲット開き過ぎじゃないのかぁ』

???
頭の中が
唐突に現れた『正解と思っていた事が否定されるといった現実』についていけず。

当時のムラタにとって、バゲットはクープがバシッと開いてボリュームがあって。。。
ボリュームがあって、クープが開いているのだから良いのではないかと。
矛盾している事が理解できないのでありました。

生地が伸びるには何が必要か。

段々と経験年数を重ねるごとに。
少しずつ見えてきたのです。
生地の力は、捏ね始めてから焼き上げるまで、階段を登るように徐々に強くなっていくという事。

その強くなる物質が『グルテン』

そして、パンの旨味となるのが、この『グルテン』が分解されて作られるアミノ酸

グルテンの考え方
生地に力を付けたい=グルテンを出す(いろいろな方法があります。)
パンに旨味を出したい=グルテンを分解する(グルテンを溶かしていく感じです)
この反比例する現象、
パン生地を強くしてボリューム出したいけど、
パンの旨味も出したい(ボリュームが減る可能性が増える)
そうなんです。
パン生地がうまく膨らんで、旨味の感じるようなパンを作るためには
グルテンを何らかの方法で出す(捏ねるだけでは難しいです)
それと同時にグルテンを溶かしていく、
それと同時に澱粉質を分解していく。。。。
このバランスなんです。
このバランスがうまく整っていると、生地は焼成時に抵抗なく適切な体積まで伸びる事ができて綺麗なフォームを残しながら焼き固まる事ができるのです。

もしこのバランスが崩れると具体的にどうなるのか。

こうなります。

食パンですが、そこ面が持ち上がって空洞になっているのが分かりますでしょうか?

これは、食パン生地を1斤型に2玉入れて焼き上げたものですが、
2玉の生地各々に力が付き過ぎて、一つの食パン型の中で、
2つの生地玉が1つになる事が出来なかった状況です。

もし、もう少し力の弱い生地だったら
きっと2つの生地玉が、焼成中に1つになって
このような穴は開かなかったはずです。

どのような時にこの『底開き食パン』が出来上がるのか。

具体的な話になりますが、上の写真にあるようなパンはこんな事が原因で考えられます。

捏ね過ぎ(グルテン出し過ぎ)
一次発酵取り過ぎ(ガスの核を大きくし過ぎ)
パンチ入れが強過ぎ(グルテン力の中の引き締まる力を出し過ぎ)
生地が固過ぎ(給水がうまく選定されていない)
捏ね上げ温度が高過ぎ(発酵が早く進み過ぎて、コントロールが出来ていない状況)
水質が理解できていない(夏場と冬場の塩素残留量の違いによる発酵スピードの理解ができていない)
成形で締めずぎ(成形の時につける加工硬化を理解できていない)
焼成のタイミングが間違っている(構造緩和が適度に終わっていないのに焼いているかも)
焼成温度が間違っている(ショックテーミック)ヒートショックみたいな現象が起こって持ち上がってしまっている。
etc…….
上げればきりが無いのですが。
こういった1つ1つの知識をつけるために
日々、努力と反省が必要なのだと思います。
パン生地の力とは。
コケて、起き上がって、つまづいて、足元を見ながら慎重に進んで、木の枝にぶつかって、やっと全体が見えてきたかなという時に、周りには素晴らしい景色が広がっている事に気付けるのかもしれません。
パン作りとは、失敗と反省の延長線上にある完成。
だから、若い職人さん達に覚えておいて欲しい事。
失敗から学び、反省から自己の成長を促し、人様の口に入る食べ物を作っている事に誇りを持って欲しいと。その失敗の数と反省の深さから出来上がった完成は、
失敗もなく、反省もないパンと比べると、比較にならないほど人様の心も身体も満たすことの出来るパンになるのだと信じております。
パン生地の力とは『パンを作る為の力』
パン生地の力とは『食べる人に何かを感じ取っていただける力』
この2つが大事なのではないかと、今回は真面目にブログを書かせていただきました。
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繁忙期に突入しかけております。
出来るだけブログも書きたいのですが、時間が取れず
頑張って週1回は(月曜日or水曜日)の定休日に書こうと思っております。
こんなに多くの方に読んでいただけるように成っているとは知らず、
何回もチェックして頂いているのに更新が無い状況で苛立たせてしまっていたら申し訳ありません。
では、また来週。。。。