バゲットのレシピを考え直す。

日本に帰ってきてから、味と食感の記憶が曖昧になる前に組み上げたバゲットのレシピ。
今まで9年間同じレシピで作ってきましたが、
ミキサーや、生地を冷蔵するスペース、生地の玉取りの大きさ、
色々とパン屋を始めた頃とは状況が変わっておりまして、
より現代に合うようなバゲットを作りたいと思いまして、レシピの組み替えをするために、昨年末より試作を開始させていただきました。

試作でのチェクポイントは、

吸水。
この吸水量が、ムラタが好みとするところの合格ラインを満たさないものは一次予選敗退ということで、粉の選定には入れませんでした。

世の粉の選び方に、水が多く入れば入るだけ良いと言うような見方もございますが、
バゲットに関しましては、
水の入り方が少く、モゴモゴするような食感も好きではなく、
水の入りが多く、皮がパリパリしすぎて、その薄い皮が故に香ばしすぎる香りが立つのも好きではなく、
食事中の料理を際立たせる役目に徹する食感で、
それらを実現する事ができる吸水量を現実化できる粉。
っと言う観点で選ばせていただきました。

食感。
国産小麦のモチモチ系、内層ボコボコ系が日本のバゲットで普及が進んでおりますが、これは好みの問題なのですが、フランスでの食感がすごく好きだったので、アミロペクチンの割合が多い国産バゲットよりではなく、この9年間作ってきた今まで通りの食感から大幅に変わることの無いような食感になるように限定いたしました。

風味。
甘さが際立つ粉、
長時間発酵しなくても元々の持っている粉のアミノ酸値による先天性的な旨味を持つ粉、
酸味がきつい粉
エグ味をぼかせない粉
色々な粉と出会いましたが、
味を作れる粉。これが決め手でございました。
製粉会社さんが持ってくるサンプルの粉での営業トークによく出る言葉で、
旨味オー。とか
もちもち感がー。とか
保水性がーとか
色々と『おし』の部分を語っていただけて楽しみに試作させていただいて、
その違いの部分をスタッフみんなで研究するのですが、
『風味というのは作るもので、作られたものに頼りすぎてはいけない』
これをモットーにさせていただいております。
こう聞きますとすごいように聞こえますが、
特徴が造られて、誰がやってもこんな味が出ますよ的な粉は、
値段が高いように感じられます。
この値段の高い粉で誰が作っても、こうなりますよー的なパンを作っってしまうと、
それ相応の値段になってしまい、それ相応の風味になってしまい。
村田パンらしく無くなってしまう気がするのです。
だから使う粉は、味を表現し易い粉、発酵によって変化が現れる粉。
レシピだけでは作れない『表現を組み込める粉』
要するに平凡な粉です。
それ単体で作るとパサっとしたパンや、老化の早いパン、旨味のないパン、
後味の余韻がないパンが出来上がるような平凡な粉です。
絵の具でいうところの、白色です。
薄い青を入れて爽快にするのか、
濃い黄色を入れてシュッとするのか、
淡い赤を入れてジワーと残るのか、
ほんのちょっとの黒を入れて引き締まるのか、
そんな自由に調整のきく粉です。
こんな特徴がありますっていう赤が強い粉は他の色を入れにくいのです。
その赤を作るために、物凄い製粉会社の努力がつめられていて、なかなか薄める事も難しいのです。


離水のスピード。
私どものパン屋では、味を出すため、作業性を良くするため、
フレッシュなパンを1日の中で何度も焼き上げる為に生地を冷蔵発酵させております。
生地が捏ねてから焼きあがるまでにかかる時間がレシピ変更後15時間ー72時間になりました。
バゲットを焼く為のレシピ変更前の冷蔵保存可能時間は、15時間ー48時間。これは、冷蔵発酵中に生地中に含まれている二酸化炭素等の影響でphが少しずつ下がって行くのが影響するのと、粉が時間と共に水和していくと言う事が原因と考えておりまして、
この水和の方をゆっくりと進む粉の選定をさせていただきました。
大麦粉、日清製粉のロレンス、国産小麦数種類、小田象製粉ガネーシャ。
どれも素晴らしい粉ばかりだっったのですが、
最終的に使うことに決めたのが、気流粉砕の粉を全体量のうち何%か配合している、小田象製粉のKISA。
小田象さんに、この気流粉砕の粉だけ販売して頂くことをお伝えしたも、
それは技術的な問題で出来ないとのことで、さらにどれ位の割合で気流粉砕の粉を配合しているのかも企業秘密で、答えがサクッと出せないため、
自分なりに配合比率を変えて、水和を遅らす事ができる力と、食感が強くなりすぎないバランスをみて使用量を決めさせていただきました。
今までのニップンのジェニーを3割だけKISAに置き換えさせていただきました。
現段階では30%ですが、食感と水和と老化を考えてこれを28%〜33%の間で微調整をしていこうと思います。

老化耐性。
レストラン様に卸をさせていただいている手前、
ストレート法のバゲットのように老化が早いものはあまり作りたくなく、
翌日でも焼き直しをしてパリッとしっとりとした食感を実現したいと言う希望がありまして、ここもクリア出来たように思います。
内層が変更後のレシピは気泡が荒めでガリガリとしないか心配だったのですが、しっかりと水分保ててると思います。
益々微粉砕小麦に驚かされております。

メイラード反応。
これについては意図して見つかったわけではなく、偶然発見できたものでして、KISAの粉を使った時に赤ちゃけて焼きあがりまして、この粉もしかしてメイラード反応が強いのかも。っという発見がありました。
このメイラード反応の時に起こるストレッカー反応の香気成分が良い感じな気がします。
どこかの検査期間に出したわけではなく、感覚テストですので、言い切ることはできませんが、好きな香りがします。
それに、メイラード反応が起こりやすいので、同じ温度で焼き時間を1分〜2分短縮する事ができて、水分保有量を少しだけ上げる事ができました。
水分保有量が上がりすぎるとネチネチをした食感になるのですが、ここはKISAのタンパク質そんなに高くないけど水が入ってボリュームが出る。
っと言う性質に助けられまして、体積を増やす事ができて、水分密度がそんなに多く変わっておらずクリアできたと思います。

長時間発酵による香気成分の変化と天然酵母による酸味。
冷蔵発酵の時間を伸ばすと、天然酵母を使っているので、間違いを起こすと酸味が強くなるのですが、ここも粉によって酸味が強くなることもなく、クリア、後は人的ミスが出ない限りは極端に味がにトゲが出ることはないように思います。


微生物による様々な分解活動(これについては只今勉強中につきまだまだ語れる事が少ないです。イースト単体でガスが発生して膨らんだだけのパンよりか、天然酵母による様々な菌が行う分解活動、様々な有機リン農薬を分解する事ができる菌が単離されている現代化学で、天然酵母中にもその菌がいてくれたら。。。。なんて希望を持っております。)

こんな経緯と考えがありまして、10年目を迎える今年にレシピの変更をさせていただきます。

味食感には100人いましたら百通りの感じ方がございまして、
きっとご満悦の方も、ご不満の方もいらっしゃると思いますが、
ご理解いただけますと幸いです。