最近厨房で起こった出来事。発酵を止めるという事。

メゾンムラタでは、ハード系のパンは『ほぼ全て』低温長時間発酵と呼ばれるパン作りをしております。
もう少し詳しく話すと、

1 生地が捏ねあがってから、
2 一次発酵をとって、
3 パンチを入れて、
4 一次発酵後半(二次発酵)をとって、
5 パンチを入れて、
6 冷蔵庫で長時間発酵、熟成させます

そして、その生地を12時間〜60時間後

7 必要な分だけ冷蔵庫から取り出して分割して、丸めて、
8 必要な分だけ発酵させて(ベンチタイム)、
9 成形して、
10 最終発酵をとって、
11 焼き上げる。
というのが1日の中で何回も行います。

このように、低温長時間発酵のパン作りは、柔軟に工程を組めるのが大きな特徴かと思います。
一度の仕込みで作られた生地は、

直説法だと、一気に全てを焼き上げてしまうので、焼き上げ回数を増やそうとする場合、仕込む回数を増やす事になります。

低温長時間発酵だと、一回の仕込みで、12時間〜60時間の間で(メゾンムラタの場合)好きに焼くことができます。








とある日の朝に起こったパン作り。

本来なら、
全体の低温発酵生地の3分の1の量の生地を分割して朝一の店頭用に用意するはずが、
不注意から全ての生地を分割して、
ベンチタイムまで取ってしまった後に気づいたのです。
直説法のパン屋さんや、低温長時間発酵の使い方をしっかりとマスターしていないパン職人だと。

『全部焼くしかないから焼いてしまえー』
っとなるかもしれませんが。

ムラタパンが取った行動とは。

最終発酵を8割くらいまで取った状態で、冷蔵庫で再び発酵を止めたのです!

全体の半分を朝一の店頭用に焼き上げまして、残りの半分を乾かないように布等で覆って、冷蔵庫に入れて、5時間後のお昼前にもう一度焼きたてをお出ししたという事です。

ここまでくると、発酵っていつでも止めていいのか?

という疑問が出てきます。

奥が深い『低温長時間発酵』巷では色々なやり方があり、どれも間違っていないし、どれも正しいのですが、このやり方は、これを目的にしている。っというような、目的と行動と結果が結び付くと、よりパン作りが明確になって、お客様や、パンを食べてもらう方々に喜んで頂きやすいのかなと思います。

どんなタイミングで発酵を止めるやり方があるのか

一般的には2つの方法があります。
次の工程順のが入る場所で発酵を止める(すごーくゆっくり継続する)2種類です。

1 捏ねる
2 一次発酵
3 パンチ
4 一次発酵後半(二次発酵)
☆(バックプースラント)
5 分割、丸め
6 ベンチタイム
7 成形
8 最終発酵
☆(プースラント)
9 焼成

ここでプースラントと言う単語が出てきましたが、
プース(発酵)ラント(ゆっくり)=プースラント=ゆっくり発酵する

バックプースラントとプースラントの語彙的な使い分けは、
バックの中でゆっくりと発酵しているか、それとも成形している状態でゆっくりと発酵しているか
と言う違いになります。

成形した状態でのプースラントは、上手に出来れば、添加物等を使わなくても良いのですが、
安定させるために使っているパン屋さんが多い気がします。

安定させると言うのは、時間の経過と共に、生地の水和が進み過ぎてしまったり、
乾燥してしまったり、力がなくなってしまったりというのを防ぐ行為です。







それで今回、朝一全ての生地を分割して、ベンチタイムまで取り終わってしまった状態で
気づいたムラタパンで行った方法は、

バックプースラントとプースラントの併用です。

仕込み〜焼き上げの工程の中で、
一度しか発酵を止めてはいけないと言う決まりはないのです。

柔軟に、生地にかかる負荷を考えながら発酵を促したり、止めたりして良いのです。

 

知識がパン生地を救ってくれて、
温かい新鮮なパンを焼き上げることが出来ました。

 

ムラタ的な捉え方、考え方。

低温長時間発酵と言うのは、生地をゆーっくりと、熟成、酸化させる方法で、発酵の副産物を使って生地に力を与えて、風味を付加させて、保存性をよくする発酵技術。

添加物を使って作るパン作りというのは、添加するもので酸化させたり、力をつけて、添加するもので風味をつけて、老化を防止する、化合技術。

この二つののパン作りには、一番大きな『時間』という違いがあります。
時間をかける事でしか生まれない味、食感、感動。

これらを作ることが、個人の小規模パン屋さんの使命ではないのかなと思っている次第でございます。

スーパーには並ぶ事がないパン。
それが、経験と知識と、愛情を込められたパン。
化合技術で作られるパンも良いけど、
発酵技術で作られるパンもまた、良いのではないかと思うのです。